加納欄の待ち合わせ シリーズ26
あたしは、少し離れて外の様子を伺っているゴリラを仕留めようと、近づこうとした。


今回武器は何もない。


デートするのに、わざわざナイフ持って来るなんて、野暮なことはしない。


なければ、奪えばいいのである。


でも、奪ったからって、使える物ではないけど。


ゴリラを装っても、所詮相手は人間だ。


散弾銃で、狙えば即死だろう。



さぁてと……。



あたしは、ゴリラを仕留めるべく、体制を低くして、カウンター脇から2m近く離れて置いてあるベンジャミンの観葉植物に近づいた。


ゴリラはあたしに気づく事もなく、まだ外の様子を伺っていた。



すると、ポケットから、突然振動が伝わってきた。


ケータイのバイブ音が、作動したのだ。


あたしは慌てて、更に体制を低くし、ケータイを取り出した。


着信の名前を確認した。



大山先輩。



バイブの音も、静かな場所では、響き渡って聞こえてしまう。


あたしは、二つ折りのケータイを開き、耳にあてた。


「もしもし?」


あたしは、小声で口を開いた。


「欄か?今、そっちに向かってるんだが、待ち合わせしてた喫茶店が事件に巻き込まれてるらしいんだ。お前、今何処にいるんだ?」



その真っ只中にいますけど?



「欄?」


「えっとぉ……」


「……お前なぁ〜」


微妙な呆れた声が返ってきた。


「だって!しょうがないじゃないですか!言われたお店にいただけなんですからね!」


あたしは、できるだけ声を抑えて反論した。


こんな不可抗力で、大山先輩に呆れられるのは、納得がいかない。



大山先輩が、もっと早くに来てくれれば、こんなことには巻き込まれずにすんだのに……。



「俺が行くまで動くなよ」


大山先輩のいつもの言葉が聞こえた。



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