甘いキスの魔法
そのまま授業もろくに聞かずにじっと見ていると、梨音が泣いた。
校舎と校舎の間はそこまで離れているわけじゃないから、だいたいは見えてしまう。
泣いた梨音に手を差し出そうとして引っ込めた橋岡。
申し訳なさそうに顔の前で手をあわせて、一生懸命あやまっていた。
するとそんな橋岡をみて梨音は笑い出して。
やっぱり俺は、不思議な気持ちになる。
もういいや、と思って机の位置を戻して黒板にかいてある文字を必死に写す。
写し終えて、はー、とため息を漏らすと授業が終わった。
すると高原がやって来る。
「…ひーかーるくん」
「…キモい。」
女の子が出すような甘ったるい声を出した高原に、一言つぶやくように言った。
「ひでー、輝。
んじゃ、部活行こー」
そういわれてようやく、もうこんな時間だったことに気付く。
ん、と頷き荷物を持ち上げながら席を立ち上がった。