甘いキスの魔法
「……っあ!弟迎えに行かなきゃいけないんで先に帰りま……っ?」
「だから、送らせろっつーの」
立ち去ろうとした梨音の腕をとって真面目な顔で言えば、
ようやく梨音もおれたのか、わかりました、と一言だけ言って俺の隣に並んだ。
「……家どこ?」
さっきまで、空は青かったはずなのにやはり冬は日が沈むのは早くて、もう既に夕日が沈みかけていた。
「ここら辺です。先輩は?」
俺も、と返してお互い黙って歩き続けると突然梨音が口を開く。
「先輩はどうして…こんな私に構うんですか?」
いきなりの質問に頭がついていかずにその場に立ち止まる。
「あのなー…好きだからに決まってんじゃん。好きなやつに好かれたい、って思っちゃだめなの?」
頬を人差し指でかきながら言う。
「ごめんなさい…。私、男の子ってわからなくって」
そう震えながら隣で話してくれた梨音の頭を撫でる。
二人の間を冷たい風は通り抜けて。
二人にはまだ、距離があった。