甘いキスの魔法
「先輩、ありがとうございました。家、ここなんです。先輩の家はどちらに?」
幼稚園から家までの距離はほんとにあっという間で。
なんだか、急にさみしくなってしまう。
「俺の家も、ここら辺。そこの曲がり角曲がってちょっと右行ったとこ。」
と聞いて、初めて知る。
…………結構、近かったんだ。
「ならよかったです。じゃあ優、お礼ちゃんと言って。」
「………。」
と俯くだけで何も喋ろうとしない優。
「…優?」
心配になって優の顔を無理矢理、上に向けさせれば
「やだ。」
とたった二文字の言葉を漏らす。
ため息混じりに"どうした?"としゃがみ込んで、聞けば
「お兄ちゃんと一緒にいたい!」
と珍しく優が我が儘を言って、あたしを困らせる。
「お兄ちゃんだって、家があるの。帰らなくちゃ怒られちゃうの。ねえ、優。お願いだから我が儘言わないで?」
ゆっくりと丁寧に言えば、優の目から涙が溢れ出して。
「やだやだやだやだ…っ」
と駄々をこね、あたしの事を叩こうとする。
そんな優を半ば強引に抱き上げ、立ち上がった。