甘いキスの魔法
優が、降りようとあたしの腕の中でもがいて。
力を入れ直せば、「やだやだやだ!」
と、優が本当にあまりにも珍しくこんなに我が儘を言うから。
眠いのだろう、と考える。
はやく、家に入って風呂に入れて寝かせてあげようだなんて思っていれば
「…おいで」
とあたしが抱き抱えてた優に先輩が手をだして、
優が泣きながら先輩に手を伸ばしてひょいっと、抱っこして。
「まだ、遊びたいよな?」
と、やさしく優に聞いて
「おにいちゃんとあそびたい」
優が、先輩にぎゅうっと抱きつきながらそう言った。
先輩が顔をあげた優の頬の涙の跡を、ゆっくりと拭い。
「…梨音、俺は大丈夫なんだけど。優くんと遊んでいい?」
と真っ直ぐな目であたしを見つめるから、
あたしは、"お願いします"とだけしか言えなかった。