甘いキスの魔法

優が、降りようとあたしの腕の中でもがいて。






力を入れ直せば、「やだやだやだ!」






と、優が本当にあまりにも珍しくこんなに我が儘を言うから。








眠いのだろう、と考える。






はやく、家に入って風呂に入れて寝かせてあげようだなんて思っていれば








「…おいで」




とあたしが抱き抱えてた優に先輩が手をだして、

優が泣きながら先輩に手を伸ばしてひょいっと、抱っこして。








「まだ、遊びたいよな?」




と、やさしく優に聞いて





「おにいちゃんとあそびたい」




優が、先輩にぎゅうっと抱きつきながらそう言った。




先輩が顔をあげた優の頬の涙の跡を、ゆっくりと拭い。






「…梨音、俺は大丈夫なんだけど。優くんと遊んでいい?」






と真っ直ぐな目であたしを見つめるから、




あたしは、"お願いします"とだけしか言えなかった。


< 94 / 97 >

この作品をシェア

pagetop