恋愛倶楽部 -love-



ギリギリ中身のチップは無事だったらしいけど。

再度、お母様がケータイのデザインを考え中なんだって。



少し不審に思いながらも、ゆっくりとケータイを耳に運ぶ。



相手が誰だかわからない時は、決して自分からは喋らない。

相手が用件を告げるのを待つ。


それが、ゆずゆ流の対応術。

正しいかどうかは知らないけど。



わずかな沈黙。


『もしもし?』

狙い通り、相手が先に口を割った。


男の人?

不安感に襲われつつ、変わらず無言を貫き通す。


『ゆずゆ?
あれ、番号間違えたかな』


と、さらに続けて相手が問いかけてきた。



………え?

今、ゆずゆって。



『もしもーし、聞こえてる?』

あたしの名前、知られてる。


それに、ゆずゆって呼んだよね?

そう呼ばれて最初に浮かんだのは、笑顔。

それも昨日の。



どうして、すぐ浮かんだんだろう。

今までなら、ゆずゆと呼ばれて浮かぶのは、笑顔じゃなくて俯いた姿だった。


別れを告げた瞬間の、亜蓮だったのに。


声が違うから、亜蓮じゃないって気づいたから、浮かばなかっただけ?

それとも───



「凪兎……?
なんで、あたしの番号」






< 242 / 432 >

この作品をシェア

pagetop