恋愛倶楽部 -love-
ギリギリ中身のチップは無事だったらしいけど。
再度、お母様がケータイのデザインを考え中なんだって。
少し不審に思いながらも、ゆっくりとケータイを耳に運ぶ。
相手が誰だかわからない時は、決して自分からは喋らない。
相手が用件を告げるのを待つ。
それが、ゆずゆ流の対応術。
正しいかどうかは知らないけど。
わずかな沈黙。
『もしもし?』
狙い通り、相手が先に口を割った。
男の人?
不安感に襲われつつ、変わらず無言を貫き通す。
『ゆずゆ?
あれ、番号間違えたかな』
と、さらに続けて相手が問いかけてきた。
………え?
今、ゆずゆって。
『もしもーし、聞こえてる?』
あたしの名前、知られてる。
それに、ゆずゆって呼んだよね?
そう呼ばれて最初に浮かんだのは、笑顔。
それも昨日の。
どうして、すぐ浮かんだんだろう。
今までなら、ゆずゆと呼ばれて浮かぶのは、笑顔じゃなくて俯いた姿だった。
別れを告げた瞬間の、亜蓮だったのに。
声が違うから、亜蓮じゃないって気づいたから、浮かばなかっただけ?
それとも───
「凪兎……?
なんで、あたしの番号」