恋愛倶楽部 -love-
あたしは無知。
凪兎のことを何も知らない。
今だって、どうして凪兎のことを春海が涙と呼ぶのか……
どうして電話で凪兎が、自分を涙と言ったのか……
それさえも知らない。
「私の前に現れたってことは、それなりの覚悟をして来たんでしょう?
なら、教えてあげるわ」
春海は言って、凪兎の左腕を掴んで少し上にあげた。
最初会った時にもしてたリストバンド。
「抵抗しないのね」
呟くと、それを真下に向かっておろす。
腕を掴んだまま、横へ反れた春海の影から見えたソレは───
「今日は見逃してあげる。
ケンたちには私が取り逃がしたことにしておくから」
楽しそうに笑って伝えられる言葉は、もう頭に入らず通り抜けて。
「次は、紫の場所で会いましょう。
その時、あなたたちがどうなっているのか……楽しみにしてるわ」
怖いくらい笑顔を浮かべた春海を、見送ったのはたぶん寿羅だけ。
だって、あたしにはそんな余裕………
「凪兎、」
「ごめん。
ずっと嘘ついてて、ごめん」
生温い風は、まるであたしたちを引き裂くように。
歩み寄れば触れられる距離にいるはずのキミが遠い。
知ってしまった。
凪兎の左手首に刻まれた刻印(しるし)──紫色の菊の花を。