恋愛倶楽部 -love-
すぐに走り去ったそのコを探したけど、人混みに紛れて見つからない。
『凪兎、どうした?
聞こえてるか?』
耳に当てたままのケータイからは、呼びかける声。
「あぁ……聞こえてる聞こえてる」
ぼーっとしながら、とりあえず答えて。
「自分で決めたことなら、それでいいんじゃない?」
ついさっき言いかけたセリフを口にする。
しばらく無言が続いて、相手が話すのを待っていると
『ただ、あいつ泣いてたからさ……』
今度は静かに悔やむような声。
泣いてた……?
いや、まさかな。
さっきのコも泣いてたけど、あまりにも偶然すぎる。
ただ1つ、浮かぶ疑問。
だとすれば、さっきの女の子はなんで泣いてたんだろう。
一目惚れとは違う。
でも、単純に知りたかったんだと思うんだ。
自分がぶつかった相手がどうして泣いていたのか、その理由が。
再び亜蓮さんの家に向かって踏み出した足。
「今頃、街中を泣いて走ってるかもね」
ミルクティーの缶に傷がないかを確認しつつ、問いかける。
「そういえばさ、その別れちゃった彼女さんってなんて名前?」
『ゆずゆ。
漢字じゃなくて、ひらがなで』
「ふーん……ま、もうすぐ着くからそしたら話聞くよ。
部屋あったかくしといて、寒くて死にそう」
……ゆずゆ、ね。
あんたの名前を初めて聞いたのは、その日───‥