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□第一章

──まだ終わんないの……?

嫌気がさして、時計を見る。
時計の針は、十二時三十分を指していた。

──あと十五分て……。死ぬ、私死ぬ。

只今、昼食前の授業中。教科は数学。私、石田蜜香(イシダミツカ)の、この世から消えてくれと切実に願うほど、大っ嫌いな教科。
先生が、熱心に連立方程式とやらを書いているけど、私には全然理解できない。理解したくない。暑さのせいで、余計集中力が失せてくる。
ふと窓を見る。結構な高さである。

──こっから落ちれば、授業中断されるかもしれない……。

そんな風に、馬鹿な事を考えていると、

「ミツ、消しゴム貸して」

と、隣から小さく声が聞えてきた。ちなみに、ミツとは私のあだ名である。
声の主は、石田尚夏(イシダショウカ)。私の双子の姉だ。
双子といっても、二卵性双生児だから、あんまり似てないんだけど。あ、でも、同じ親から生まれたから、顔つきとかは似てるけどね。

私は、無言で消しゴムを手渡す。尚夏は、嬉しそうに受け取った。

「ありがとう」

「……また忘れたの?」

そう訊くと、せっせとノートの文字を消しながら、尚夏が答えた。

「うん。昨日、絵描いてたから、多分置いてきちゃったんだと思う」

たしかに、昨日尚夏は、机に向かって何かを書いていた。絵描いてたのか……。
お母さんは、「やっと尚夏も、勉強する気になったのね!」なんて、喜んでたのに……お母さんには、言わないでおこう。

「あ、はいこれ、ありがと」

消しカスを払いつつ、尚夏が消しゴムを返してきた。

「いえいえー」

適当に返事をして、消しゴムを筆箱に直す。
すると、前の方から、また声が。

「ミツー、俺にも消しゴムプリーズ」

呼んで来たのは、遠藤清太(エンドウセイタ)。ちなみに、尚夏の想い人である。
振り向いて頼んでくるキヨ(清太のあだ名)を、私は

「嫌だ絶対」

と一蹴。
すると、期待を裏切らず、キヨが抗議してくる。

「なんでだよ! なんで尚夏ならよくて、俺は無理なわけ!?」

「ええい、うるさい。ミツって呼ぶからだ馬鹿キヨ。やめろっつってんでしょ」

「お前だって、人の事キヨとか呼ん──」

そこで、不自然にキヨの声が途切れる。
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