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女子が着替え終わって、男子がゾロゾロと入ってくる。
「臭っ!」「臭いキッツ」と、男子が口々に言うが、女子は全員シーンとしている。

「ミツ、なんか良い匂いしない?」

「んー? ……ああ、さっき春から、汗拭くシート借りたからさ」

気付けば、隣にいた尚夏。

「グレープフルーツの匂い……ミツ! 今日は八百屋に──」

「寄らないよ」

「せめて言わせてよ……」

がくっと肩を落とす尚夏。
暑くて、八百屋なんか行ってられない。

「なんか果物食べたーい」

「キヨにでも訊いてみたらー?」

ほんの冗談のつもりだったけど、尚夏は立ち上がって、

「そうだ! そうする!」

と、顔を赤くしながら、キヨのところまで行く。
顔が赤いのは、体育のせいか、キヨのせいか……。絶対後者だな。
フッと笑って、私は再び窓の外を眺める。

闇の色をした鳥が、窓のすぐ近くを通り過ぎた。おそらく烏だろう。

「あ、雀」

烏につかまんなよー、と心の中で思いながら、雀を眺めていた。
すると、尚夏の楽しそうな声。

「ミツ! 一緒に行こうね!」

「ずいぶん唐突だな。何処に?」

「遠藤家だよ! グレープフルーツあるって!」

まさか本当に訊くとは。
半分尊敬、半分呆れつつ、私は尚夏に訊く。

「えー……一人で行きなよ~。私なんか邪魔でしょー」

「そんな事ないよ! 行こうよー。グレープフルーツが呼んでるよー」

尚夏が、ブンブンと私の腕をつかんで振る。うん、うざい。

「あんた、グレープフルーツとキヨ、どっちが楽しみなの?」

「清太が七十パー、グレープフルーツが三十パーかな~ぁ」

そこはキヨが百パーだろう、と突っ込みつつ、「よかったね」と返した。


時計は、午後二時半を指している。
学校が終わるまで、あと少し。

私がニヤリ、と笑った事に、誰も気付いていないだろう。

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