a square
「あー、待ってよ、ミツ!」

通り過ぎた私を、同じく早足で追ってくる尚夏。
そんな尚夏に、私は一つの問題を出す。

「尚夏、『私は昨日、学校へ行っていました』は、英文でどうやって表すでしょうか」

すると、尚夏は、

「……え、えーと、過去はdidでしょ……? 昨日は、いえすたでーだから……」

と、悶々と考え出した。
なるほど、私の脳味噌が詰まってないんだから、尚夏の脳味噌も詰まっていないという事か。双子だし。
何回目かも分からない溜息をついて、尚夏からの答えを待つ。
すると、尚夏が「分かった!」と嬉しそうに叫ぶ。

「I did yesterday went to school. 違う!?」

「違う!」

ペシッと、尚夏の頭を叩く。「痛い!」という声が聞えたが、無視。

「didを使ったら、動詞は原型に戻す! だから、wentじゃなくてgo! そんで、yesterdayは副詞だから一番最後! そんでもって、そもそもI didじゃあ、ただの過去形! 『~していました』は過去進行形! 別物なの! 分かった!?」

そこまで一気に説明して、尚夏をにらむ。尚夏は、ぽけっとした顔で、

「……分かんないって言ったら怒る?」

と。
怒る気力も無いわよ……と言う気力も残っていない。がっくりと肩を落として、再び歩き出す。

「で、答えは何なの?」

おずおずと訊いてくる尚夏に、私は

「……I was going to school yesterday. こんなん基本中の基本」

と答えてやった。
「おおお!」と尚夏からの拍手。

「だから、基本だって……」

若干イラつきつつも、悪い気はしなかった。

「ねえミツ! 今日はグレープフルーツ食べながら勉強にしよう! 遠藤家で!」

少女漫画の主人公の様な、キラキラした目で訴えて来る尚夏に、

「……ちゃんと許可とれたらね」

と、笑って返した。

目の前には、私達の家が見えている。
この炎天下から開放されるまで、あと少し。
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