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玄関の扉を開けて、

「「暑い!」」

と、二人同時に、ただいま代わりの挨拶。
すると、廊下の左手にある台所から、お母さんが出てきた。

「二人共やり直し!」

そう言われて、しぶしぶと二人で、もう一度挨拶。

「「ただいまー」」

「はい、お帰り」

にっこり笑うお母さんは、「手洗って勉強しなさいよー」と言って、また台所まで戻って行ってしまった。
相変わらず、香澄という、しとやかな名前が似合わない母である。

「お母さん、おやつはー?」

その後を追いかける、尚夏。
おやつを出さない、ということは、お母さんは、今日私達が遠藤家に行くのを知っているのだろう。
そう思って、私は言われたとおり手を洗いに行った。

蛇口をひねると、出てきたのはお湯。

「セルフでお湯に……」

ぽそりと呟いて、ハンドソープのポンプを押した。
すると、鏡に映る人影。もちろんそれは尚夏。

「あとで、清太に電話して訊くから、ちゃんと付いて来てね」

私の横から、尚夏も手を洗い出す。

「あいよー」

すでに水で泡を落としていた私は、階段を上って、早々と自室に戻った。
それから数秒後、聞えてくる足音。

「ミツ、手洗うの早い」

不満そうな顔で言う尚夏。

「あんたが油売ってるからでしょ」

正論を返して、私は着替え始めた。
隣で、尚夏も着替え始める。

「うわー、見てこれ。肩と二の腕、色違う!」

「日焼け止め塗らないからです」

「え? ミツって、日焼け止め塗ってた?」

「塗ってないよ、気にしないし」

「……シミだらけになっても知らないから」

「お互い様でしょうが」

苦笑しつつ、クローゼットから、お気に入りの黒のチュニックを出す。
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