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「卵焼きはお前がねえ……だからたまに、石田家から焦げ臭いニオイが…」

「焦がした事はないわよ! 私はねえ、見た目は完璧なのに、味が駄目になるの!」

決して自慢できないことを、キヨの襟をつかんだまま言う。
「へえ」と呟いて、キヨが私の箸から卵焼きを奪う。

「ああッ!」

気づいた時には、時すでに遅し……。卵焼きは、ゴクンと飲み込まれた。

「あああ……私の最高傑作がああ……」

どうせコイツの事だ。不味いとか、胸焼けが、とか言うんだろう。
でも、本当に今日のは、良い出来で──……。

「うまかったぞ」

「え?」

驚いて、顔を上げる。

「お前、やりゃ出来るんだな」

笑いながらそう言われて、思わず顔が熱くなる。

「い、いやいやいや! しょっ……尚夏に比べたら、私なんか」

「尚夏のんはすげえ美味かったわ。ポテトサラダが特に」

え、こいつ、ウインナーしか盗って無かったよね?
弁当を見ると、半分以下に減ったポテトサラダがあった。

「てめェいつ食いやがったコラ」

「お前が卵焼き自慢してたところ辺り?」

悪びれもせず、キヨが笑う。くそう……。
悔しくて、私は残りのポテトサラダを食べる。うん、美味しい。

「ほんとに美味しかった?」

尚夏がキヨに訊く。キヨは笑顔で、

「うん、まじで美味かった」

と。
途端に真っ赤になる尚夏。
……ほんっと、タラシだなあこいつ……。
呆れていると、

「おい、キヨ太」

と、キヨを呼ぶ声。
声の主は、遠藤晃(エンドウアキラ)。キヨの双子の兄。ちなみに一卵性双生児なので、髪型以外はそっくり。
キヨの髪は、真っ黒なストレートなんだけど、キヨ兄(私なりの晃の呼び方)の方は、毛先がふわふわと、やわらかいカーブを描いている。ちなみに、人工的なもの。

「お、晃! もしや弁当か!?」

「当たり」

クスッと笑って、キヨ兄が弁当をキヨに渡す。緑色の弁当袋が手渡された。
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