a square
「死~ぬ~……」

私は汗を拭いながら、体育館を春と出た。
ちなみに、今日は走り幅跳びだった。私の最高記録は95センチ。

「だーから、言ったじゃん」

笑いながら春が言う。

「お茶くれなかったくせに……!」

「だって緑茶だよ? あんた飲めないでしょ?」

「今なら泥水でも飲める気がする……」

「じゃああれ飲んできなさいよ」

春が指差す先には、昨日の雨で出来たのであろう水溜り。

「春、物のたとえだよ」

「わーかってるって」

体育館シューズ片手に、春は私の肩を叩く。

「ちょ、うわ!」

フラフラだった私はこけそうになって、前の人の服をつかんでしまった。
しかも男子。しかもゼッケンには、でかでかと「遠藤」と……。尚夏の姿が見えないのが、唯一の救い。

しかし、そう思ったのもつかの間。気付けば、私とキヨは転んでいた。ひじを強打して泣きそうな程に痛い。

「……お前何してんの」

キヨが振り向いて訊く。ちなみに、キヨは今私の前で座り込んでいるような状態である。この体制でこけたなら、尻餅ついたんだろうな……すまん。

「……キヨは知らなくていいことさ」

「人こかしといてそれはねーだろ! 手ェジンジンするんだけど」

「ご、ごめん……事故、事故です」

私が言うと、キヨは「ったく…」と立ち上がる。
そして、私の方に向き直って、

「大丈夫かよ」

と、手を差し出す。
その手をとって、私は立ち上がった。

「いやー、ごめんごめん。つい道連れが欲しくなって」

「いやな言い方するなよ、お前」

キヨが呆れて笑う。
「おい清太、先行くぞー」と男子に言われて、キヨは、「じゃあな」と慌てて去っていった。
< 8 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop