繭虫の眠りかた
入ってすぐの場所は石が敷かれた二畳ほどの広さの土間になっており、その奥に畳の空間がある。

胡蝶の部屋と変わらないような、
壁があり、
襖がある、
調度の整えられた普通の部屋だ。

その普通の部屋と土間とを仕切って、頑強な木格子が視界の端から端まで続いていた。


明らかに、その「部屋」に住む者を閉じこめ、虜とする目的で造られた檻だ。



──ここは何なのだろう。



そう思ってすぐに、胡蝶の脳裏には「座敷牢」という言葉が浮かんだ。

家にとって都合の悪い者を幽閉する目的で、武家屋敷の奥にはそのような場所が造られることもある。

これまで武家に伝わるおとぎ話のように、彼女自身や伊羽家とは無関係だと思い込んでいた設備だった。


目の前に広がる非現実的な光景に、
膳を手にしたままぼう然と立ち尽くして──


そして彼女の目は、座敷牢の中に静かに座する人間を捉えた。

身分の高い人間が着る、上等な布地で作られた部屋着に身を包んだ──見知らぬ少年。


元服前らしい年頃に見えるその少年は髷を結っておらず、長い髪をそのまま垂らしていて、そして……



「誰だ?」



異人の如き姿形に釘付けとなった胡蝶に、少年は檻の中からそう尋ねてきたのだった。
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