繭虫の眠りかた
胡蝶は落ち着かない気分になった。
「父上の側室にそんな方が……」
伊羽家に、異人の側室がいるという話など胡蝶は聞いたこともない。
「あなたのお母上は……」
「とうに死にました」
「……では、それで、あなたはどうしてこんな場所に……」
「どうしてだと思いますか?」
「…………」
表情はにこやかに微笑んだまま、取りつく島もない口調で言う少年を、
胡蝶はまじまじと見つめた。
「どうしてだと思います? ねえ、姉上サマ」
胡蝶に向かって「姉上サマ」と呼びかける声音には、軽蔑するような響きが存在していた。
こんな容姿の者が武家社会の中で、
この国の永代の家老家である伊羽家の子供として、
表の世界に出ることなどできようはずもない。
だからここに幽閉されているのだ。
それは少し考えればわかる答えで──
胡蝶は馬鹿な質問をしたと思った。
けれど無意味な問いかけをした胡蝶の愚かさを差し引いても、
彼女に注がれている少年の視線には、それだけではないような──薄ら寒い何かが滲んでいる。
少年は「伊羽家の現当主サマ」と言った。
それは胡蝶の父親のことであり──この少年にとっても父のはずだ。
なのに、この少年は父のことを「父上」とは呼ばなかった。
少年が口にした「現当主サマ」という響きもまた、胡蝶に対して「姉上サマ」と呼びかけた時と同じ、軽蔑を含んだ冷たいものだった。
「父上の側室にそんな方が……」
伊羽家に、異人の側室がいるという話など胡蝶は聞いたこともない。
「あなたのお母上は……」
「とうに死にました」
「……では、それで、あなたはどうしてこんな場所に……」
「どうしてだと思いますか?」
「…………」
表情はにこやかに微笑んだまま、取りつく島もない口調で言う少年を、
胡蝶はまじまじと見つめた。
「どうしてだと思います? ねえ、姉上サマ」
胡蝶に向かって「姉上サマ」と呼びかける声音には、軽蔑するような響きが存在していた。
こんな容姿の者が武家社会の中で、
この国の永代の家老家である伊羽家の子供として、
表の世界に出ることなどできようはずもない。
だからここに幽閉されているのだ。
それは少し考えればわかる答えで──
胡蝶は馬鹿な質問をしたと思った。
けれど無意味な問いかけをした胡蝶の愚かさを差し引いても、
彼女に注がれている少年の視線には、それだけではないような──薄ら寒い何かが滲んでいる。
少年は「伊羽家の現当主サマ」と言った。
それは胡蝶の父親のことであり──この少年にとっても父のはずだ。
なのに、この少年は父のことを「父上」とは呼ばなかった。
少年が口にした「現当主サマ」という響きもまた、胡蝶に対して「姉上サマ」と呼びかけた時と同じ、軽蔑を含んだ冷たいものだった。