Dear...
あたしが呼びかけると、カコも、そして『あいつ』もあたしを見た。
「未来ちゃん」
嬉しそうにカコが笑う。
「ちょっとこっち来て」
腕を引っ張り、廊下の隅へと来る。

不思議そうに着いてきたカコに問う。
「あいつに何て言われた?」
「あいつ、って?」
「あいつ、あんたの前の席の五十嵐」
あぁ、あの人か・・・、カコは言った。
「なんか言われてたでしょ?」
「うん」
なんて言われた?と聞く。
と同時に、カコが答えた。
「転校生は、この学校の掟として三週間トイレ掃除だって」
あたしは大きい溜め息をついた。
「え?未来ちゃんどうしたの?」
こいつ、信じ込んでんのかよ・・・。
「そんなもんないよ、カコはからかわれてるだけ」
「じゃあ・・・」
「トイレ掃除なんかやんなくていいよ」

手を引いて教室へ戻ると、明日香がやってきた。
「この子かぁー、カコちゃん」
背の高い明日香と、少し背の低いカコのツーショット。
「今野加湖です」
カコが頭を下げると、明日香は笑った。
「可愛いねー、あたし宮島明日香、明日香でもみやじーでもいいよ」
「じゃあ・・・明日香ちゃん」

「カコ、五十嵐にトイレ掃除やれって言われたんだって」
と言うと、はぁ!?と言う明日香。
「何それ、のんがやりたくないだけじゃん」
理不尽な、と言っている。
「五十嵐さんって悪い人なんですか?」
カコが眉を下げている。
明日香は少し悩んでから、小さな声で言った。
「いじめが好きな金持ちのお嬢さん、親の七光りだと思っていいよ」
その答えに、あたしは笑ってしまった。
「何笑ってんの」
「いや、本当のことだなぁーって思って」
カコが貰った教科書に名前を書いている間、あたしと明日香が話す。

「未来が守りたいって気持ち分かるわ」
「子犬みたい、うるうるしてて」
カコを見ながら、可愛い、と何度も呟く。
笑って聞いていると、学校のスピーカーから大きな咳払いの声がした。
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