Dear...

「痛ッ･･･！」
「････ちょっと、のん･･･」
「大丈夫だって」

強く床に叩きつけられたカコを、あざ笑うかのように希が見下ろす。

･･･こんなはずじゃない。
こんな場所で、つまづいていられない。

スカートの裾を強く握り締めたカコに希は言う。
「あたしが、あんなやつに嫉妬するわけないじゃ大きく響く声。
徐々に、希とカコの周りに人が集まり輪を作る。
この光景。
誰も･･･助けてくれない。

「でも、わたしにはそう聞こえた」
･･･泣いちゃいけない。
泣いたら相手が面白がるだけ。

そろそろ休み時間が終わる頃だった。
違うクラスの生徒も徐々に集まり始める。
「何やってんのー？」
「転入生いじめだよ･･･言い返してるみたい」

さっき突き飛ばされた勢いで足を挫いてしまったカコ。
右の足首が強く痛んだ。

希の茶色く長い髪は、未来を思い出させた。
もし、未来が助けてくれたら。
そんなことを考えては、一人じゃ何も出来ない自分に不甲斐なさを感じた。
未来ちゃん･･･。
目を閉じていると、遠くから未来の声がした。


「カコ･･･？」
声のする方を探すと、驚いた顔をしている未来と明日香の姿があった。
「かこっちゃん！」
明日香の声と共に、二人がカコの元へと走った。
そして、なぜか分からないけれど涙が溢れて来てしまった。
円の中では、希と数人の生徒。
カコを支える未来と明日香。
それをクラス全員と言っていい人数が囲んでいる。

「何やってんの･･･？」
未来の声が静かに響いた。
バツが悪そうに下を向いて黙る希。
「何したかって聞いてんだよ、答えろよ！」
強い口調の未来。
立ち上がって、希の前に立つ。
「ねぇ、聞いてるの」
希の肩を揺さぶる。
「答えないなんて、ずるいよ」
「こいつが･･･」
「こいつが･･･あたしのこと悪く言ったから！」
その言葉に、振り返ってカコを見る。
カコの目には、今にも零れそうな涙が溜まっていた。

周りを見渡しても、誰も何も言わない。

「じゃあ何でカコ泣いてるんだよ」
「それは･･･」