Dear...
嫌な気持ちに頭を巡らせていると、近くに居たお婆さんが目に止まった。
荷物を重そうに持っている。
目の前には・・・わたしと同じくらいの男の人。
「大丈夫ですか?」
わたしがお婆さんに声をかけるのと同時に、さっき音楽を聴いていた女の子が音楽を止め、ヘッドホンを外した。
息を飲んで、わたしは言う。
「すいません、そこ譲ってもらってもいいですか?」
こちらの方に、と。
「何?」
話していたのを止め、笑いながら言った。
「ここ、優先席なんで、席を譲ってあげてほしいんです」
そこ、と指をさす。
だがそんなのには目も向けない。

「いや、早く取ったモン勝ちでしょ」
ありえない、そう思った。
「でもこの方、困ってるんですよ?両手に荷物抱えて」
すると、わたしと話していた男の人とは別の人が立ち上がった。
「君さー、見ない制服だけど。学校どこ?」
ガムをくちゃくちゃと食べている。
これだから、男の人は苦手だ。
誰も助けてくれない。一緒だ。
そのまま黙っていると、男は強い口調で言った。
「どこだって聞いてんだよ!」
体を突き飛ばされる。・・・けど、痛くない。
振り返ると、さっきの女の子がわたしを支えていた。
「ありがとうございます」
少し震えてしまう声で言うと、いいえ、と笑ってわたしを席に座らせる。
「また違う制服だよ、あんたどこだよ」
げらげら笑う男の人に、一人、立っている女の子。

わたしと一緒で、突き飛ばされちゃうよ・・・。
なんて思っていると、彼女は言った。
「自分たち見て、モラルないなぁって思いません?恥ずかしくないんですよね」




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