終学旅行
「今、みなさんにはホテルの部屋で過ごしていただいております。外出や生徒さん同士の面会を禁止してしまっており申し訳ありません」

「仕方ないですよ。口裏を合わせないようにするためですよね」
なんてことないように言うと、植園は「ほう」と感心するような声を出した。

「どうしてそう思うのですか?」

「簡単ですよ。記憶っていうのはあいまいですし流動的です。他のみんなと事件の話をしてしまうと、自分が見ていない状況でも、まるで見てきたかのような錯覚した記憶を植えつける危険性があります。実際、あの時、僕らはパニック状態でした。だからこそ、記憶を混乱させないようにしなければいけませんしね」

「さすがですね。他の生徒さんに尋ねると、ほとんどの方が『あなたなら正確に答えられる』と証言したのです。学級委員というだけでなく、あなたはとても落ち着いておられたそうですし」
植園が眼鏡をなおしながら見つめた。

 潤は、首をゆるゆる振ると、
「いえ、実際僕もパニックでしたよ。いつ殺されてもおかしくない状況でした。だからご期待にそえるほど覚えてはいないと思います」
と答えた。

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