終学旅行
「潤が助かって本当に良かった」
母親がハンカチで涙を拭きながら震える声で言うのを、植園はおだやかな目で見ていた。

「それで、僕は何を話せばいいのでしょう」

「そうですね。つらいかもしれませんが・・・あなたが見てきたことを話してほしいんです。時系列は無視してくださって構いませんが、事実だけをお話ください」

 潤は目の前の湯飲みを口に当てると、喉を湿らせた。

 軽く深呼吸をすると、ゆっくりと頭に情景を浮かべながら話し出す。

「まず、僕たちは朝、名古屋ヒルトンホテルを出発しました」

 朝の風景、はしゃぐ生徒、鳥岡の怒鳴る声。すべてがまるで夢のようだ。リアルさがなく、まるで映画でも見たかのような光景。でも、そこに潤は確かにいたのだ。

 潤はあった出来事を順に話した。植園は口を挟むことなく、最後まで微動だにせず耳を傾けていた。潤の話す声、母親のすすり泣き、すべてが夢のよう。


 潤が女と実際に話をした場面になると、植園は目を大きく見開いたが、それでも最後まで何も問うことはなかった。


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