戯れ人共の奇談書
「ん?」
突然何を思ったのか、腕をだらりと垂らすユェ。
「うぉっと。うぉ~、解放~……、っと」
能力が解かれたのか、後ろへ倒れそうになるロイド。なんとか体勢を戻し、身体をほぐすため伸びをする。
「どうした?」
「わからねぇ。殺気とは違う気配だ」
念の為か、ユェは白衣の懐からフォレストと呼ぶ、ダブルアクションの拳銃を取り出した。
「あ、ちょっと待って。戦う気はない」
路地に隠れていたらしい、出て来たのは雪のような髪をなびかせる少女。
両手を上げ、戦意はないようだ。しかし、ユェの構えた銃口は、しっかりと少女の胸の真ん中を狙っている。
「今し方、能力を使っていたでしょ? 奏演者さん」
しかし不気味なまでに可愛らしく微笑む少女に、二人は警戒を緩めなかった。
傭兵として、幾多の戦線を乗り越えた経験による勘だ。
「だから、戦う気はないって。協力してほしいの」
「協力?」
口を開いたのはユェだ。
一定の距離を保つ少女に戦意がないと判断し、銃を降ろし、警戒を和らげた。
しかし少女は、そんな事を気にも留めずに続けた。瞳に一点の決意を抱かせて――。
「天使が動き始めた」