戯れ人共の奇談書
狂気というものは、道化師ならば背負わなくてはならないリスクの事だ。


道化師の多くは何かを失った者であり、その時の破壊衝動や憎悪が強い程、狂気に蝕まれやすい。

ちなみに道化師の中でも、防衛本能で道化師に目覚める者も居り、それが奏演者の類となる。


狂気に蝕まれた者の多くは、理性がなくなり本能的衝動や、破壊的快楽を求めるようになる。

しかし、奏演者や、同じ道化師でも魔女には比較的、狂気に支配され難いはずなのだが……。


「間違いなく狂気。クローンなんて代物じゃなかったし、直接会いに行ったから言い切れる。能力反応は姉さんそのものだった。死にかけたけど」


肩を竦め、おどけた調子で話す内容にしては、ハードな事を言う。

「歌でも歌われたか?」

足を伸ばし、リラックスした座りかたをしていても、口調と眼差しが真剣なロイド。

やるときは出来る子だ。


「えぇ、夜蝶の鎮魂歌第二章。あれは本当に死ぬかと思ったわ」

「一人であれ食らって良く生きてたな」

何てことない様に語るミシティアに、驚きよりも感心に似た衝撃を受けるロイド。


「まぁね。必死だった」

少し複雑そうな笑みを浮かべた。実の姉に命を狙われたんだ、無理もないだろう。


「狂気が原因って事は、こっちが敵意を持とうと持つまいと襲われるかもな」

冷静に分析を続けるユェだが、狂気という一種の心の問題にはお手上げのようだ。悩み続けている。


「ま、なんとかなるさ。考えてもわからない事を考えても、わからないだけだ」

「ぷっ、……くくく」


平然と言ってのけるロイド。その様子を見て笑いを堪えるミシティアと、逆の反応を見せるユェ。深い溜め息と共に、額に指を添え首を振っている。

「さすがバカ。発言が既にバカだ」

「なんと!?」

「いやいや、これはある意味、名言かも」
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