戯れ人共の奇談書
小さな港町〈トレンカ〉
街並みは賑わいを見せ、特に酒屋や食品を取り扱う店が多く建ち並んでいる。
漁港があり海鮮料理が有名で、小さいながらも賑わい、栄えている。
「ふぅ……」
そんな港町を練り歩く、緋色の髪の少年。
「どうしよう、つくべき道が見当たらない……!」
否、ただ道に迷っただけのアホのようだ。
「まずはシェラと合流するべきだな」
特に焦る様子もなく、辺りを見回しながら石畳の道をフラフラと歩き出す。
しかし、見回すことに夢中になりすぎて、横切ろうとした若い男気づいていなかったらしい。走ってきた男と勢いよくぶつかってしまった。
「おいてめぇ、気をつけろ!」
ぶつかった痩せた男は、胴よりも太いカバンを抱きかかえ、走り去っていく。
「おいおいおい、今の若者はいかんねぇ。ま、オレも若いけど」
男の足は速く、もう豆粒大の大きさまで遠ざかってしまった。
「オレも若いから、追いかけちゃうよ~」
しかし、少年にはそんな事は関係ないみたいだ。
何の構えもなく走り出す。腕を振らずに上手く脱力しながら走る。
その速さは異常なまでに風を切り、あっと言う間に男の背後へ周り跳ねた。
「とうっ」
そして、空中からの凄まじい蹴りが、男の腰へ叩き込まれた。
「がぁっ!?」
奇妙で短い悲鳴を上げた後、これまた勢いよく吹っ飛んでいく。
石畳の上を跳ね、転がり、壁にぶつかるまで止まらなかった。
「あ、やべ。やりすぎた……」