戯れ人共の奇談書
「お前に案内を任せたのが間違いだったな」

「なによ、それ~。人間誰にでも間違えはあるじゃない」


どうやら道に迷っているようだ。


「ったく。シェラとはぐれちまったじゃねぇか」

そう言いロイドは頭を掻き、だるそうな足取りで先を歩く。絡みつく草や蔦を蹴り上げて退かして進む。


「そうね。何かある前に合流しないと……」

そして辺りを気にしながら、ロイドのおかげで開けた道を歩くミシティア。


「お困りか? 微力ながら拙者が助力致そう」

どこからともなく声がした。その声は渋く、落ち着きがあり、数多な修羅場をくぐり抜けた男性を思わせる。


「そのお声は!」


立ち止まり、慣れない敬語を使うロイド。後ろを付いて歩いていたミシティアは、よそ見をしていたのか「痛っ」と小さな悲鳴を上げ、鼻をさする。

「も~、急に止まらないでよ」


ミシティアの抗議にも反論する余裕がないようだ。
ロイドはキョロキョロと辺りを見回し、声の主を探して居るが、見つけられずにいる。

「師匠! 出てきてください!」

「どこを見ている、戯け。上だ上」


視線を上げた先の、木の上には小振りの刀を背負った猫が一匹、太い枝に座っている。

口に加えられた猫じゃらしを、ふりふりと上下に揺らしながら。

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