戯れ人共の奇談書
「師匠! お久しぶりにございます!」
「うむ。元気そうで何より」
どうやらこの態度のでかい猫が、ロイドの言う師匠らしい。
「して、ロイド。そこの魔女の娘は?」
この猫も魔女の類だからだろう、見ただけでミシティアを魔女と見做した。
「彼女は俺達と一緒に、リースを助ける旅をしている仲間です」
「え、あ、妹のミシティアです」
「ほう、天使殿の……」
猫は枝の上から改まるミシティアを、何かを懐かしむように目を細めて見、枝から飛び降りた。
「天使殿の妹御にござりましたか、あいや失礼仕った。拙者はノブナガにございます」
そして軽い身のこなしで着地し、そのまま両前足、両後ろ足を地面につき、礼儀正しく謝罪の意を見せる。
その姿は遥か東方の地、京に住まう武人(もののふ)そのものだ。
「それにしても師匠、なんでこんな所に居るんですか?」
「ん? あぁ、いやなに、レイチェルの住人に近頃この森に訪れた猛獣を、どうにかして欲しいと頼まれてな」
言いながら、しゃがむロイドの肩によじ登るノブナガ。最終的には頭にまで登った。
「猛獣……ですか?」
顎に手を当て、そんなの居たかなぁと呟くミシティア。すぐに顔色を変え、
「シェラが危ない!」
先行して走って行ってしまった。
置いてかれたロイドは比較的落ち着いている。
「ロイド、シェラ様がいらっしゃるのか?」
ロイドの頭の上から顔を覗き込むノブナガ。背負った刀が落ちそうだ。
「いろいろ面倒な事情はあるけどな。とりあえず師匠はユェかシェラの反応を探知してください。途中でティアを拾ってきますから、そこの所よろしく」
「うむ。事情は後で聞かせてもらおうぞ」
ふぅ……、と全身の力を抜くロイド。そして抜ききった瞬間に、前へ飛び出した。