戯れ人共の奇談書
「ふむ。ロイド、もう近いぞ」
本当にロイド達は先程どこにいたのか、今や馬よりも軽快に森を駆け抜けるロイド。
そしてロイドの頭を上からペシペシ叩くノブナガに、抵抗に疲れたのかぐったりと抱えられたミシティア。
森の深くまで来たからか、辺りは仄暗く、蔦や薬草がより一層生い茂っている。
「了解です」
少しずつ速度を落とし、脚の運びを緩めていくロイド。数メートル進んだ後にやっと立ち止まり、ミシティアを丁寧に立たせた。
両手を力一杯握り締め、肩を震わせるミシティアを。
「よし行くぞ、ティア」
悪びれた様子のない笑顔をミシティアへ向けるロイド。
その笑顔を消し飛ばしたのは、顔一面に張られた氷と、か弱い拳だった。
「この変態!」
怒号を辺りに響かせ、殴り飛ばしたロイドとは反対方向へ歩き、更に森の奥へ進むミシティア。その足取りは怒りに満ちている様子だ。
「あだだだ……、ちょっと待て、ティア!」
殴り飛ばされた方は、木に頭を打ったところで止まり、なんとか起き上がった。
「拙者が行こう。おぬしはしばらく動けまい」
いつの間にかロイドの頭から降りていたノブナガが、ミシティアの後を追いかける。
その後ろ姿や、飼い主を追いかける飼い猫のようだ。刀を背負っているが。
「おいおい、大丈夫かよ」
それは誰に言っているのか、独り言りながら呆然と佇むロイド。