戯れ人共の奇談書
蔦が絡まる森の中を逃げるロイド、追うのは荒野の狩人達。詰められる様子のない距離。それでも気の抜けた表情をしない。
「グールの肉って食えんのかな……」
朝食をまだ取れていないロイドの脳内の大部分は、食事をする事に支配されつつあった。
「俺もみんなみたいに、反応探知出来たら楽なんだけどなぁ」
それでもロイドを突き動かすのは、野生的勘だけだ。
ロイドには能力反応を探知できない。それは能力の種類に大きく影響される。
反応を探知出来るのは、能力を自然へ溶け込ませ操る〈魔女〉、自分の能力を他者へ直接流し込み操る〈奏演者〉の類のみ。
双方共に自分の外へ能力を流す事に長けており、外を流れる能力を感じとる事も出来るという事だ。中には国を越えても特定の能力反応を探知出来る者も居るぐらいだ。
ロイドはと言うと、道化師の中で最も多い〈奇人〉の類で、能力を外に出さずに自身の体を操る者達の一人だ。
例えばロイドのように運動能力を肉体の限界まで引き上げるなど、身体改造の能力。
故に魔女や奏演者と違い探知が出来ない代わりに、漏れる能力反応は能力を使う時だけで更に微量な為、比較的探知され難い。
ちなみに魔女は常に漏れているため、近くに居るだけで探知されてしまう。奏演者は奇人と似て、能力使用時のみ漏れるが、濃厚な為違いが出る。
「師匠なら獣だから獣臭がしてそうな方に居るな……。わかるかっ!」