戯れ人共の奇談書
「まったく、なにしてるのよ……。だからナイフの替えを買っときなさいと、あれほど……」
「シェラか? よかった、フォレストを貸してくれ!」
走るロイドの視線から離れた木の上に立つシェラ。その隣にはシェラと手をつなぐミシティアの姿。ノブナガの影は見当たらない。
「そんなことしなくても、まとめて凍結するから大丈夫」
口を開いたミシティア。機嫌は直っているようだ。
「行くよ、シェラ」
「えぇ」
「ロゼ!」
「ロゼ!」
目つきを引き締めるミシティアを見、微笑むシェラ。そして息を合わせ、掛け声を口にした。
「こいつは……、すげぇな」
たちまち辺りに冷気が立ち込め、霜柱、氷柱、パラパラと墜ちる小粒の霰。急速に進む森の凍結。次第にグール達の足が遅くなり、ロイドも足を止めた。
「ふぅ……寒いわねぇ。さすが、氷の悪魔、ジャックフロストを名乗るだけはあるわね」
「シェラが増幅器になってくれたから」
瞬間的に造られた銀世界に動く物がないのを確認し、木から飛び降りる二人。
「ロイド~。あれ、ティアちゃん。こっちだっけ?」
動く物がないのを確認し。
「そのはず……、あ。あれじゃない?」
置かれているのは、氷樹のオブジェや凍りついた草のオブジェ。
ミシティアが見つけたのは、凍結されたグールの数メートル先に立つ、氷のオブジェ。
「ロイド~……? って、ちょっとどうしたの!?」
「避難させるの忘れてた……」
それからロイドが解凍されたのは、30分後だったという……。