戯れ人共の奇談書
「ぶえっきし!」
ずずっ、と鼻をすすり体を抱き寄せるロイド。
今や目の前の焚き火にあたり、震えこそ止まったがまだまだ寒いらしい。
その事を気に病んでか、ミシティアは薪や薬草を採りに出かけ、シェラも付き添って行ってしまった。
「鍛錬が足らんぞ、ロイド。その様な事でシェラ様や天使殿達を護れるのか? ふっ!」
そして、その後ろでは見事な居合い斬りでグール四体を解体するノブナガ。
「だけど師匠。さすがに氷漬けはきついです」
「薄氷の輪舞、輪唱する狼(ウェルドーマ・オルフ)、魔王の系譜第二章。拙者が知る、天使殿の自然を操る氷技だ。お主には釈迦に説法かな?」
ロイドは返事をしなかった。
誰よりも天使・リースの能力を知り尽くしている自信があるからだ。
普段は傷ついた者を癒やす詩を紡ぎ、必要あらば最小限の災害を引き起こす彼女の優しさを。
加減出来る程、彼女の能力〈モニカ〉は強大であること。
それ故の恐ろしさを、よく知っている。
「ふむ、ロイドよ。師匠として言っておく」
なんですか? と振り返らず焚き火に暖まるロイド。
ノブナガは続ける。
「目の前の物事すべてが事実ではない。己の目を信ずる事は易い。だからこそ、己の心で道を定めよ」
そこまで言い終えた所で、グールの解体をしていたノブナガは姿を消した。グールの肉をその場に残し。
そして――
「騙されるでないぞ、ロイド」
ロイドの目の前へ現れた。焚き火は先ほどまでノブナガの居た場所で、グールの肉を焼き始めている。
「俺はいつだって勘だけを信じてますよ」
そう言う少年の目に迷いの光はなかった。あるのは好奇心といつもの呑気な眼差し。
それがロイドだ。