戯れ人共の奇談書
長く薄暗い通路。
ヒールの音が反響し、明かりの頼りは灯る蝋燭のみ。
そこを歩く若い男女。
「歌を紡ぎし彼女の唇は、誰(だ)が為その詩か」
窓のない廊下をしばらく歩き、嫌気がさしたのか肩まである黒髪を揺らし、男が詠う。
心なしか足取りも重い。
「マスター、語ってないで早く来てください。置いて行きますよ」
反面、先行く女性は軽い足取りで、もともと鋭い眼差しをさらに鋭く細め、男を睨む。
「怒るなよぉ! 俺は一時でも長くアリシアちゃんと――」
「早く行かないと、他の隊長達に何言われるか……」
男の発言を遮り、尚且つ十分早い足取りを更に早める女。
負けじと男も重い足取りを早くする。
「んなこと、猫の旦那も居ないんだから、変わらんでしょ。それに会議って言っても、どうせ天使ちゃんのことだろ?」
「わかりません! 何にしても急ぎますよ」
「へぇへ。ま、天使ちゃんなら、あの坊主達に任せて大丈夫だろ」
へらへらとニヤつく男を見、少しだけ緩む女の顔。
しかし、それも束の間、元の無愛想へ戻った。