戯れ人共の奇談書
「ロイド・アヴァンシア氏を殺処分と致します。頼みましたよ。マオさん」
「はい?」
大きく丸いデスクのある部屋。おそらく幹部なのだろう、机を取り囲む者達。
そしてその一角。ポツリと周りに人を寄せ付けず、口を開いた男性。
それほど長くないロマンスグレー色の髪を後ろへやり、穏やかながらも鋭い目つきから放たれる雰囲気は、さながら洗練された銀ナイフのよう。
「え~っと理由を尋ねよう、レイヴェンス」
その男に対し、特に礼儀など見せぬマオ。椅子へ腰掛けてはいるが、今にも立ち上がり、この場を乱しかねない雰囲気を放ち、背もたれへ手をかける。
緊迫した時が流れた末、レイヴェンスと呼ばれた男。
「だって天使をあんなのにしたのは、あいつに決まってる! ワシらのアイドルを汚しおって!」
「そんな事だろうと思ったぜ!」
子供のような怒りを見せるレイヴェンスに呆れるマオ。
後ろに控えていたアリシアも、溜め息混じりにマオの方へ近寄る。
「おほん。殺処分は冗談です。ただ、アリシアさん。貴女の協力が必要かもしれません。なのでロイド君達と合流してください」
威厳を保つ為か瞬時に穏やかな口調へ戻したレイヴェンス。
そして指名されたアリシアはきょとんと目を丸くしていた。
「え、あの。私……ですか?」
「お願いしますね」
レイヴェンスの笑みは、拒否など言わずもがな許さぬ雰囲気を放っている。
そして雷よりも早い身のこなしで、アリシアの手を取り体を抱き寄せるマオ。狭いとばかりに睨む幹部達。
「それじゃあ、レイヴェンスが奢ってくれるみたいだから旅行に行こうじゃないの。アリシアちゃん」
「寄り道はしないようにその色欲魔を見張っててくださいね。アリシアさん」
歌い出しそうな程軽やかなステップで出口へ向かうマオに、最早その声は届いていなかった。
「はぁ……」
しかし、これでアリシアの苦悩と困難の旅路は、幕を開けたのだった……。