戯れ人共の奇談書
カラスの侍
焼けた肉の香ばしい空気が漂う森の中。堂々と動物性タンパク質を摂取して、他の肉食獣を引き寄せそうな物だが、彼らは考えない。
「ふむ。風が出てきたか……。拙者はもう行くとしよう」
一匹、肉ではなく猫じゃらしをくわえ立ち上がるノブナガ。
「もう行かれるのですか?」
「はい。シェラ様、どうかご無事で」
「ご自身のお身体を気遣うようにしてくださいね」
「御意」
「師匠。リースの事でわかる事があったら教えてください」
「うむ。連合会も天使殿の事で慌ただしいがな」
ニヒルな笑みを浮かべミシティアの方へ振り返るノブナガ。
「ミシティア殿、天使殿は必ずや助けられる。今はまだ不甲斐ないかもしれぬがな」
急に話しをふられ戸惑いを隠せなかったミシティア。しかし理解したようで、ロイドをちらりと見、短い返事とともに微笑んだ。
「ん? なんだなんだ?」
相変わらず置いてけぼりのロイド。
「それでは、失礼仕る」
背を向け、歩き出したと同時にノブナガの姿は陽炎の様に揺らぎ、消え去った。
「あ、師匠にこれ持って帰って欲しかったな」
これと差したグールの肉の山を見つめ、手にした肉にかぶりつく。