戯れ人共の奇談書
対峙する二人の武人。侍は納刀されたままの刀を居合の型で構え、奇人は魔女から受け取った氷で作られた太身のナイフを持ち、構えをとった。
一つは常手に構え、もう一つは逆手に構え前に突き出す、守りの構え。
「いざ、参る!」
決闘には些か自信があり、腕もそれに見合うだけ備えているからだろう。様子を伺うことなく、間合いを詰める侍ミヅキ。
居合の型からの抜刀斬り。抜かれた切っ先は空を切り裂くも、正確にロイドの胴を捉えていた。
しかし、ロイドはそれを潜り避けミヅキの懐へ忍び込んだ。
「お前に一つ教えておく」
「余裕だな! 某はまだ負けておらぬ!」
懐に入られるも半歩右へ即座に回り込み、刃は弧を描く。
「この世にお前らの言う絶対悪なんか存在しない」
避けずに氷のナイフで上へいなし、腹を蹴り前方へ吹き飛ばした。
透かさずミヅキを追いかけ――
「正義の敵は、別の正義なんだよ!」
鳩尾を殴りつけ追い討ちをかける。
地面へと叩きつけられたミヅキの体は一度跳ね、苦しみのあまり悶えている。
「俺達もお前らも正義を貫いて生きている。理由のない事は起こらない。お前らが悪と呼ぶ奴にも当てはまる。覚えておけ」
「くそっ、某としたことが……」
紫へと姿を変えてく空に包まれる中。大樹と魔女に見守られ、決闘は終結した。