戯れ人共の奇談書
「さぁ、某の負けだ。この首持って行くがよい」
まだ苦しそうに顔を歪めつつも、その場で正座になり目を瞑るミヅキ。
しかし、それを見るロイドの頭には疑問符が浮かぶ。
「ん、なんだ? 人間って食えたっけ?」
「な! そんな訳なかろう!」
ばっ、と素早い身のこなしで片膝を立て、少しだけ立ち上がる。
「じゃあ、なんで殺す必要あるんだ?」
本当に訳がわからないといった様子で頭を捻るロイド。
「あれは決闘だ! 決闘に負けた以上、某は首を差し出すのが武士道だ。生き恥はさらさぬ」
「生きるのは恥か?」
「負けた者にとってはな」
「なんでさ。泣き喚いても、ゴミみたいに逃げ惑っても、結局は生き残った奴が勝ちじゃん」
ロイドが言い切って間が空き、次第にミシティアが笑いを堪えている音が聞こえてきた。
「その理論、いいね。ロイドらしい」
ミシティアの警戒は完全に解かれたようで、噴水の縁に腰掛け笑っていた。
「む? すまぬが、そこのお嬢さん。教えてくれぬか?」
「とりあえず、人は殺したくないから貴女には生きて欲しい。でしょ?」
名を口にせずにロイドの方へ向く。
「よくわからないけど、たぶんそうだ。とりあえず、ユェが戻ってくるまで待ってくれ。ちゃんとあいつの話をきいてやって欲しい。あんたの正義の為にも」
手にしていたナイフを地面へ勢いよく投げ刺し、その場であぐらを掻いた。
ミヅキと向かい合う形で。
「……御意。それが命ならば」