戯れ人共の奇談書
立っている者は三人。見張り役と思われる男二人、リーダーから比較的離れている。そしてユェ。
地面に押さえつけられていた二人の男も、立ち上がろうとしている。
しかし、魔女が倒れた今、優位なのは奏演者。
「ククッ、よし。これで俺は……」
勝利を確信し笑う奏演者。ニヤける、賊たち。なぜか? リーダーから一番遠い男は言う。
「おいおい坊ちゃん、ひとつ教えてやる。盗賊ってのは、いつでも“不足の事態”ってのを想定してんだぜ」
「ふん、なにを今更……っ!?」
鈍く空気を震わす轟音。痺れる腹部。下卑た笑い、増える足音。
「なに伸びてんのよ、ハンスちゃ~ん。お、ミミィもか。俺様の登場だぜ?」
「撃ってよかったんだよな?」
「あぁ、助かったよ。ガキだけど手練れの道化師みたいだったからな」
ユェの敗因は、尾行中に二人減って居るのに、気がつかなかった事。
(そうか、俺があの中年男から隠れていた時に……。くそっ!)
「ま、そういう事だ。悪く思うなよ、坊ちゃん」
嘲笑う賊たち。動けぬ少年。気を失った少女。
(出血が酷いか……。くだらねぇ)
「ん? おいおい、こいつ……。ニーナから逃亡したガキじゃねぇか? アムルく~ん」
「あ~、アヴァンシア家の?」
「ちげ~よ! ありゃエムラルド国だろ。じゃなくて、ニーナのガキどもが形成した、奴隷逃亡軍あったろ。あれのリーダーの弟じゃねぇか?」
「リーダーの名前はマオだっけか? よく覚えてんな、お前。その頭活かして、カラスになればよかったのに」
「今から転職できるかな? 元職、盗賊だけど」
(俺は……)
遠のく意識、もがくことなく沈みゆく……。
「む? これは何事か!?」
「猫がしゃべった!?」
「問答は無用! カラスではござらんが、拙者が成敗致す。覚悟!!」