戯れ人共の奇談書
略奪の調べ
白む世界。光眩い中に、俺は居た。
動かぬ手足、気怠い感覚。血塗れた布が、やけに重い。
「ふむ、回復が早いな。さすがは奏演者か、はっは」
落ち着きのある男の声。揺れる影は小さく、頭頂部には耳がある。
耳、だと?
「小僧、声は出るか?」
覗き込んで来たのは、身の丈三倍はある刀を背負う三毛模様の猫。髭はチラチラと長く、眼(まなこ)は狩人のように鋭い猫。仄甘い血の香り。俺と同じ罪人(つみびと)の臭い。
「猫が何の用だ、死神か?」
「はっは、いやなに。せっかく助けたのでな、様子を見に来たまでだ」
「去れ」
「貴様も拙者と同じ復讐者の臭いがする。くれぐれも宵闇に支配されるでないぞ、名も知らぬ血濡れ人よ」
「黙れクソ猫。結局てめぇも一緒だろうが」
「っふ、そうだな。気が向いたらまた会おうぞ。猫又ノブナガ、いつでも我が同族の側におる」
不快な程の高笑いを室内に響かせ、ノブナガは陽炎のように霞み、消え去った。残るは笑いの残響、血の匂い。
「っち、なんだったんだ。あいつ……」
そして、不快感がユェの中に残された。