戯れ人共の奇談書
まだ、動かせない……、か。
血が足りないのか、死を臆した代償か、いずれにせよ手足はまだ動いてくれそうもない。死は恐れない……、つもりだったが、肝心な時に弱い俺が出てくる。
無様だ。
「それが、生きるために必要な事だと、私は思いますよ」
「今度は、誰だ……」
音もなく開かれた引き戸。現れたのは、人の悪そうな笑みをうかべ、白衣を纏った男。ブラウンの瞳にオレンジの髪、シワのない若そうな男だった。
声に出して居なかったつもりだったが、無意識に漏れてたか?
「いえ、貴方の声は漏れていませんよ。始めまして、私はシヴェル・ログバルト。救っていただいたシェイラ姫の、護衛をしている、道化師です」
「道化師。なるほど、読心術と言ったところか」
だとすると厄介だな。
「思ったところで、もう遅いですよ。私は考えも、記憶も、全てを読み取ってしまいますから」
「確かに遅いな。俺の計画も筒抜けか」
「はい。ニーナから逃亡なさった事から、国を奪おうとしている事まで、ね」
ふむ、仕方ないか。今までやっていた事は罰せられる事だ。信賞必罰、当然の結果。
「苦労なさったようですね。どうです? 罪の意識があるなら、一緒に何かを護ってみませんか?」