戯れ人共の奇談書
笑みを崩さない、シヴェルと名乗る男。この男の言う事を信用しても、いいものだろうか……。
「疑われても仕方ありませんね。やる事は盗み。強欲な貴族の蔵(くら)へ忍び入り、貧しい村へ与えていくというもの。脅しではありませんが、手伝っていただけたら、貴方の素性を隠すのを、手伝いましょう」
「義賊の真似事か。くだらねぇな」
「奪う事しか知らない貴方には、言われたくありませんね。お返事は今すぐにでも」
今は笑みもなく、瞳には決意の光を宿し問うシヴェル。
この男、本気で義賊の真似事を、しているとでもいうのか。
メリットは、この男を味方にできる。計画の邪魔になりそうだったが、これでプラスか。
デメリットは、この男が味方になること。いつか裏切りが起こるのは視野に入れておくべきか。
「良いだろう。お互い、協力しようじゃないか」
「えぇ、貴方には期待していますよ。シー・ユェランさん」
再び、薄気味悪くすらなる笑みを、浮かべるシヴェル。すべてを見通しながらも、見下ろすでもなく、対等な態度を取ろうとする、謎に満ちた男。
一国の姫の護衛に就きながらも、義賊の真似事。
金を手にし、この男は何を欲するというのか……。見極めてやろう。