戯れ人共の奇談書
「はっ! フェンダリア国王。わたくしのような者を、謁見の場へとお招き頂き、光栄であります」
思わず、頭を下げる事を忘れてしまいそうだった。それに加え、第一声が疑問系になりかねなかった。
片膝をつき、拳を床へ突き立てる。
事前にシヴェルから習った、謁見の場での挨拶。
「あぁ、すまない。頭を上げてくれ。お硬くするつもりは、ないのだ。それに……」
立ち上がったかと思うと、まとっていた衣を脱ぎ捨て、こちらへ近づく国王。
「王、何を!?」
「礼をするのはこちらだ。娘を守ってくれてありがとう……!」
玉座を離れ、段を降り、俺と同じ床で、俺よりも低く頭を下げた王。
言葉を失ってしまった。王とは、ここまで出来るものなのか?
「王! 裸で何を……! 早く衣服を……」
「いいのだ。王とは衣をまとい、民のために存在する、厳格なる者。民を相手に頭を下げるなどあってはならん。
……しかし、裸の王など居るものか。裸の私は、一人娘の居る、ただの父親だ。父親が娘の命の恩人に頭を下げて何が悪い」
狼狽える中年の男。王は微動だにせず、口にした。
「しかし……」
男はまだ納得がいかないらしい。目頭を立てていたかと思うと、大きな溜息をついた。
王はその様子を耳で確認し、頭と両手を床についたまま、もう一度「いいのだ」と微笑んで見せた。
底知れぬフェンダリアの王。やはり、この国は気に入らない。