戯れ人共の奇談書
国の王とは、民を統率し、国としての暮らしを築くもの。
『この国の軍への所属……。本当にそんなもので良いのか?』
誰よりも冷静に、誰よりも残忍に、物事を見定めるべき者。
『はい。世間を当てもなく彷徨う、流浪の者ではございますが、腕にはいささか自信がございます』
……の、はずだろ?
『ふむ。確かに人員は不足気味。そのせいで今回のような事が起きてしまった……。うむ、それでは頼むとしよう!』
「って、アホか!」
「おやおや、ずいぶん荒れてらっしゃいますね。そんなにご不満ですか? この国の王は」
にこやかに笑うシヴェル……、いや、嫌味に笑みを浮かべるシヴェルを、睨みつける。
睨まれた当人は一度鼻で笑い、カチャカチャと、先ほどまで使っていた医療器具を片付け始めた。
小さなカバンに、次々と。
「当たり前だ! なぜこうも上手く行く!? もっと警戒をしろぉ!」
「それがあの方なんですよ。他人を悪く見ない。疑わない。一番簡単な事をしないで、一番、難しい選択を選ぶ。王としては、失格かもしれませんけど」
「バカだろ」
「えぇ、バカでしょうね。ですが、愛されるバカです」
先ほどまでの笑みとは違う、微笑みを浮かべ、窓際に備え付けられた机の横に、そっとカバンを、置いた。