昆虫戦記
「今度、俺と美加子に、ここの言葉を教えて欲しい。いつも、俺達の会話を約しているのも不便だ。俺達が、ここに来てから、ずっと俺達に合わせ、俺達の言葉で話してくれた。だから、今度は俺達が合わせる番だ。俺達以外、俺達の世界の言葉を使っている者はいないしね」

狼の長は
嬉しそうに
微笑んだ。

「私共はけして、合わせて等、いませんよ。我らは、あなた方に世話になった。世話になった者に対し礼として返し、それを忘れず感謝する。しかし、まこと殿と美加子殿が我々の言葉を学びたい、すなわち我々の文化を学びたいと申すのと同意語、有り難い限りで御座います」

まことは
ゲラゲラ笑う。

「全く、長は堅いんだから。ずっと聞こうと思ったんだけど、長の名前は何て言うの?」

長は真面目な顔をして
しばらく考えた後に
答える。

「堅いですか・・・?我らには名前等、ありません。我等は互いの匂いや顔付きで判断しています。名前と言う文化は人間、独特なものでしょう」
まことは
目をまん丸くして
驚いた。

「名前ないんだ。でも、長は長で良いか。長、言葉の講習を宜しくお願いします」

狼の長は
ニッコリと微笑む。
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