君と過ごした日々





(背中だけで智士かどうかわかるなんて、)



何故か?


その理由を考えようとするうちの脳を止めるように、目の前の彼は止まった。



そしてゆっくりと振り返った、彼は。


「…拓海…?」


目の前にはあの全てを見透かすような目でうちを見下ろしてる、拓海がいた。


うちは、拓海を見上げて気付いたんだ。
どうして背中だけで彼を智士じゃないと判断したのか。


智士は、彼ほど背が大きくないからだ。


一緒に居すぎて慣れてしまった目線。

それより遥か上を見て、拓海とはようやく目線が合う。


それだけだから。




「…綾」



『彼は人形のよう』


そういえばクラスの女子が、確かそう騒いでいたが、


「どうしたの?何でうちを連れてきた?」


そう呼ぶには彼は余りにも優しすぎはしないか?



「綾が、辛そうな顔なんてするから」


だって、そっと。

壊れ物を扱うかのように、とてもそっと、拓海はうちを抱き締めたりするから。


「…してないよ?」


その抱き締める腕に僅かに力を込めたのは、何を思ったからなのか。


そんなのをうちは知る由もないけど。



「…じゃあ、このままサボっちゃおっか?」


それが彼なりの気遣いだってことは何となくわかったから。



「うんっ」



笑顔で返事をするよ。






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