SECRET SYSTEM
言葉が切れ切れになってきているサラを見ながら、内心マセソンは焦っていた。この娘に医者を呼んでも意味がない。この娘にとって今必要なのは、医師ではない。腕利きの機械工だ。 そしていくら多少研究していたとはいえ、自分でも意味がない。精密で膨大なデータは、少しの狂いも許してはくれまい。まだ未熟な自分では、サラは救えない。救うどころか、彼女を《壊す》事にもなりかねない。


------それでも、今、やれるのは・・・。


・・・・ああ、今ここに、あの偏屈な祖父がいてくれたら!
マセソンはずっと下唇を噛んでいた。悔しさが力を加え、とうとう出血をみた。
「マセソンさん、血が」
サラはそういうと、マセソンに家の中の薬箱の場所を教えた。指さす手が小刻みに震えている。
視覚システムに異常でもあるのか、暗い瞳で力無く微笑みながら、

「申し訳ありません・・・・起きられたら、きちんと診て差し上げられるのに・・・・」

震える手で、マセソンの唇に滲んだ血を拭い取る。

「《人型生活補助システム》・・・失格ですね。私」

サラの、光の無い瞳から、涙が零れ出た。
「・・・サラ、それは」


---------”どういう仕組みになっているんだい?”


いつもの様に、尋ねようとして思わず口をつぐんだ。
・・・こんな時に何を考えてるんだ。

こんな時まで、俺は・・・最低だ。

目の前のベッドのシーツの上で、横たわっているサラ。マセソンはその手を取って、強く握った。内部機関が動いていない為、指も手のひらも冷たかった。

しばらく逡巡した後、マセソンは賭けに出ることにした。

「サラ。僕は、君を助けたい。
でも、君に対応出来るような腕の良い機械工も、賢い発明家もここにはいない。 今ここにいるのは、馬鹿で未熟なヒヨッ子研究者だけだ。
でも、僕は君を・・・どうだろう、僕に君を直させて・・・治させてもらえないか」

サラにつられて涙が出そうになる。鼻が痛いのをぐっと堪える。情けない。格好悪いだろう。
でも、仕方ない。ここで逃げたら、一生祖父には近づけない。しかしもう、今は、祖父に近づきたいというよりとにかくサラを助けたかった。
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