水島くん、好きな人はいますか。
「っあー! もう無理! ギブ! 腹減った!」
13時半過ぎか……瞬にしては耐えたほうかな。
腕時計から瞬に視線を移すと、赤ペンを持った手が教材に伸びていく。
「瞬。この公式使う問題危ういけん、今日中に覚えて」
「へーへー。わかりましたよ……って、でかでかと赤ペン入れすぎだろ! 否でも覚えるわ!」
かれこれ3時間半。
真面目に勉強をしていたのは4人だけだったと言ってもいいくらい、水島くんは順にわたしたちの勉強を見てくれた。
「とりあえずお昼食べに行こっか。どうする? 大学の学食ってうちら使えないんだよね?」
「俺は栄養よりも高カロリーを希望する」
「瞬ってジャンクフード好きだよねー。ハカセは?」
「マックは遠いから嫌かな。近場で済ませたい」
意見が合わないなあ……。と思っていれば――ぱん、と水島くんが両手を叩き、みんなの視線を集めた。
「昼飯食べ終わったら、そのまま2年前の入試問題やってもらうけん。とりあえず国数英の3教科」
「…………」
い、いつの間にそんなものを入手して……。
水島くんが手に持っているのは、本当に2年前の選抜で出された入試問題だった。
「それなりに集中力が乱される場所で、3時間ぶっ通しでできるなら、俺はどこでもよかよ」
晴れやかな笑顔を浮かべる水島くんは、わたしたちを戦慄させた。
正直、真面目に3時間以上も勉強したあと、過去の入試問題までやる気力は残っていない。
けれど、丁寧かつ真剣に勉強を見てもらった手前、水島くんの方針に逆らうわけにもいかなかった。