水島くん、好きな人はいますか。
「……、うん? 受けないと思っちょー?」
「だって頭いいから、外部受験するのかと思ってた」
わたしたちの学院も有名な進学校で、決して余所に劣るわけじゃないけれど。
「全国模試まで受けてるし、上を目指すなら他にも選択肢はあるんじゃないかなって」
「んー。勉強できる環境も大事じゃけど……」
紙の上を走るペンの音を出しながら、水島くんは教えてくれる。
「俺がいちばん求めちょるんは、自由な校風だけん」
言われてみれば部活入部や委員就任は強制じゃないし、けっこうなサボリ常習犯の水島くんが処罰を受けたって話も聞いたことがない。
自己責任っていうハードな部分もあるにはあるけど……もっとも重要視しているのは自由、か。
そんなにサボりたかったのかな。
この場合どっちなのか判断しかねるけれど、頭のいい、水島くんが考えてることってよくわからない。
「中等部でピアス開けてるのって水島くんくらいだけど、内申下がるよね? それでも開けたかったの?」
校則では禁止されているピアスが水島くんの左耳にひとつ。ごついシルバーピアスで、イメージと違うから目立つ。
「これは――…ごめん、電話」
「あ、うん。どうぞどうぞ」
携帯を取り出した水島くんが電話に出ると、みんながドリンクを持って戻ってきた。
隣り合う4人席にみくるちゃんとハカセが座り、わたしの横には瞬が腰掛ける。
「……ありがとう」
瞬はわたしの前にアイスココアを置いてくれて、水島くんにもアイスコーヒーを用意していた。