水島くん、好きな人はいますか。
ハンマーロックなんて関節技を覚えたくもないのに覚えてしまって、逃れる方法まで調べたっていうのに。
「ギブです! わかりました!」
涙声で負けを認めたのは何回目だろう。そのときの気持ちは、運動神経抜群の瞬には一生わからない。
「無駄な抵抗してんじゃねえ」
瞬はフンッと偉そうにベッドに座り直す。
本当はそんなに痛くないけど、わたしは肩をさすりながら、ぽつりと言葉を落とす。
「瞬なんて、」
「なに。反抗期か。おせーし弱々しいから今日で終了な」
さすが“瞬さま”と呼ばれていただけのことはある。
悔しいから、水島くんと連絡先を交換したことは言わないでおこう。
どのみち連絡を取り合うようなことにはならないんだけどさ。知らないみたいだし、黙っとけば怒られることもない。
「そういや玄関先でおばさんに会ったぞ」
「……そうですか」
「忙しそうだな」
「瞬、用が済んだなら帰ってほしい」
ベッドから腰を上げて言い放ったのは、瞬の顔を見ながらだと拒絶の言葉を紡げないせい。
学習机に歩み寄るわたしの背後からため息がこぼれた。
「先月受けた模試の結果は。出たか?」
「……まだ。夏休み明けには戻ってくると思う」
「あっそう。結果出たら見せに来い」
嫌ですけど……?
言ったところで、聞いてくれないのが瞬さまだ。