水島くん、好きな人はいますか。
「万代」
振り返れば、瞬はしばらくわたしの表情をうかがい、
「わかったよ」
と了承する。それは断念とも取れるもので、『今日のところは見逃してやる』と解釈するのが正解だった。
「明日、寝坊したら許さねえからな」
「寝坊するのはいつも瞬だよね……」
毎朝一緒に登校するわたしたちお決まりの会話をしたあと、瞬は部屋を出て行った。
玄関の閉まる音を聞き、降格式チェアに腰掛ける。
登校日の今日は半日ギブアップすると朝から決めていた。嫌なこと、主に勉強から目を背けると決めていた。
瞬いわく、わたしは定期的に息抜きをしているらしい。
カレンダーに丸でもつけているのかと不気味に感じたけれど、瞬が言うなら間違いないと思う。
そろりとベッドに放置されたままの携帯を見遣る。
『1回話した者は友。これ俺の鉄則だけん』
嘘……じゃないんだろうけど、なんだかなぁ……。
今のわたしは勉強から目を背けているというよりも、勉強に身が入らないと言ったほうが正しい気がした。