水島くん、好きな人はいますか。


「さむ……」


目的もなく外を歩いていたら、大学病院の近くまで来てしまった。視界に捉えたコンビニにとりあえず入ろうと、重い体を動かす。


お母さんに怒鳴られたとき委縮した体には、まだぎこちなさが残っているみたい。


怖かったな……。


そりゃ、怒鳴られたら怖いけど、叩きつけられたグラスの音にいちばん怯えた。あの音で一瞬だけ頭が真っ白になって、なにかが脳裏にひらめいた気がする。


あれは、お父さんかな。わたしを叱るときの光景か、お母さんと口論していた光景だと思う。


わたしは無意識に、怖かったお父さんをお母さんに重ねてしまったのかもしれない。


……お母さんにも“いらない”って思われていたらどうしよう。


もしお母さんが再婚したら、わたしはどうなるんだろう。今でさえ邪魔扱いされて、拒絶までされてしまったのに。



「ありがとうございましたー」


ぼんやりしたままお茶とあんまんを購入した。家に帰って食べるべきか、しばらく時間を潰したほうがいいのか。


どっか行け、って……いつまでだろう……。


「――うわっ!」


どんっ、と肩がなにかにぶつかり、ハッとする。


「最っ悪!」


左を見ると地面に落ちたコンパクトミラーを拾い上げる女子高生と、もうふたり、コンビニの前にたむろしていた。


「あ……ご、ごめんなさい」

「ちょっとそれ無事? 割れた?」

「いや大丈夫。落ちただけ――かな」


じろり。ぶつかってしまった女子高生が睨んでくる。
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