水島くん、好きな人はいますか。


「あ、あの。ごめんなさい……考え事、してて」

「べつにいいけど……アンタどう見ても中学生じゃね? こんな時間に出歩いていいわけ?」


こんな時間って……。どうしよう、絡まれてる?


「あの、ぶつかって、本当にすいませんでした」

「いやいや。それはもういいって言ったじゃん?」


傍観しているふたりの女子高生がくすくすと笑っている。


笑って、楽しんでいる。わたしって本当に運がない。


「ねー。聞いてる? こんな時間にどーしたの? ひとりで食べるご飯を買いにきたんですか?」

「あははっ! やめなよ、かわいそーじゃんっ」


本当にそう思うなら、止めてほしい。


「ほらあ、怖くて泣きそうになってるじゃん」

「だってオドオドしてムカ……かわいくてさー」


つい、バカにしたくなった? わたしがなにを言われても、言い返せないような人間に見えるから?


けたけた笑うその声は幾度も聞いたことがあるのに、耳をふさぎたくなる。


名前も知らない他人の言葉にまで傷付くなんて。今日のわたしは、どうかしてる。


もう一度謝って、ここから去ればいい。それなのに、酸素不足みたいに息苦しくて、声が出ない。足が、動かない。


この世界で、わたしが上手に呼吸できる場所は、とても、とても、狭いのかもしれない。


「やだちょっと。冗談じゃん。泣かないでよー」


浮かべられた薄ら笑いがぼやけて――突然、うしろから腕を取られる。
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